ルーブルの天使

2002年12月8日
「モナリザ」の前は、すごい人だかりだった。その微笑みがルーブルを代表していることは疑いようがなく、他の絵画や彫刻と違って、ガラスケースにしまわれているという特別待遇を受けていた。

人混みをかき分け、なんとかその姿を拝むことができたが、なぜか感動がない。ルーブルは学校の先生が子供たちを連れて写生をしていたり、美術を志す若者がスケッチをしていたりと、想像以上にくだけた雰囲気。芸術と市民の一体感すらかんじる。

それなのにモナリザだけは「見世物」になっている。僕の感じた違和感はそんなところから来ているのかもしれない。ガラス越しの微笑みと人々の熱気から身を隠すように僕はその場から離れた。祭りの後のような虚脱感を覚えつつ。

…そこに「彼」は居た。

日本では見ることの少ない巨大な絵にも、だんだん目が慣れてきて感慨を抱かなくなってきていて(いちいち感動していては時間がかかり過ぎる)先を急ごうとしたその時、大きな宗教画の片隅に「彼」は居た。

全体がどんな絵だったかは、はっきりと記憶していないし、作者が誰だったかも覚えていない。ただ「彼」だけが目に飛び込んできたのだ。小さな身体を少し前に屈め、左手には弓を、右手は人差し指をちょんと立てている。背中には白い羽が生え、髪はブロンド。碧い瞳にいたずらっぽい光をたたえて、口元がちょっと笑っているかのように見える、小さな天使。

「彼」はこう言っているかのようだった。

「みんな、わかっちゃいないね」

誰もが「彼」の前を通り過ぎる。そんな人々をモナリザよりもつぶらな瞳で見つめながら。

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