フェイク

2007年3月22日 読書
銀座のクラブに一度だけ連れていってもらったことがある。入社3年目、初めての転勤が決まり支店長に挨拶に行った帰り、上司が「行くか?」と声を掛けてくれた。

現在僕が生業としている仕事は、その当時(10年以上前)の他業種と比較すると大層羽振りが良かった。バブルが崩壊してもなお、銀座に繰り出すだけの交際費があった。

座ってウン万円というプレッシャーでガチガチに緊張していた。上司の後ろで小さくなって、ママの顔も、交わした会話も、飲んだ酒も全く記憶していない。ただ「そこにいた」という思い出が残っているだけだ。当時僕は20代前半。女の子のいるお店で飲むことに、これっぽっちも楽しみが見出せなかった。

「フェイク」は銀座の夜のお店の裏側が面白い。雇われママの存在や歩合給のシステム、永久指名・・・へぇ、そうなんだ。でも行きたくても行けるもんじゃないから、それを確認する術はないんだけど。ま、金ないからね。

ただ行きたいとも思えない。僕がまだいろいろな意味で成熟していないからかもしれないけれど、ホステスさんに聞いてもらうほどの痛快な人生を送っているわけじゃないし、立身出世したわけでもない。つまり世間的に成功した言われる人々、すなわち成金を含めたお金持ちが見栄を張ったり、愚痴をこぼしたり、ホステスさんといい仲になれないかなとスケベな下心を持って行くだけのことなんじゃない?

きっとそんなことは、そこらの居酒屋で交錯している人間模様となんら変わるものじゃなくて、ただきらびやかであるかないかの違いだけだ。え、ひがみ?

ただ、この小説で重要な場面、企業脅迫は絶対に成功しない。医薬品の製品管理は極めて厳格であって、Lot番号を調べればどこを経由して製品が納入されたか速やかに把握できる。どのお店でいつ販売されたかが判れば、あっという間に足が付く。

ま、そんな細かいところを気にしなければ、大小織り混ぜた「フェイク」が十分楽しめる内容だと思う。ハードボイルドでありながら誰一人として登場人物が死なない点や、スピード感ある展開は「特命係長 只野仁」的な笑いすら引き出している。

最後のフェイクも案外かわいいものだったしね。

ISBN:4043765029 文庫 楡 周平 角川書店 2006/08 ¥700

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