外から

最近気付いたのだが、僕の住んでいるマンションのお隣さん（それぞれの階に2部屋しかないので、お向かいさん）の部屋のドアに、外からダイヤル式の鍵が掛けてある。意図はわからない。

お向かいさんは、おばあちゃんの一人暮らし。数ヶ月前に「電気が付かない」と僕の部屋をノックしてきて、落ちたブレーカーを上げただけで「よろしければ・・・」とお礼のパンを届けてくれた人だ。少し部屋にも上がったけれど、きれいに整頓された室内は几帳面な性格を想像させるのに十分だった。

外から鍵が掛けてあるということは、中からドアを開けることができないことを意味する。おばあちゃんは一人で自由に部屋を出られないのだろうか？

痴呆？徘徊？いろんな疑問が湧き出ては消える。数ヶ月前の姿は、「かくしゃく」とまでは言えないまでも、十分元気なおばあちゃんだったのだから。こちらに引っ越して1年半。ご近所付き合いの殆どないマンション暮らしで、僕が経験した唯一と言っていい交流だったのに。

もし火事になったらどうするんだ？
急に体調を崩して、病院に行く必要があったら？

毎朝、僕は黒いダイヤル式の鍵を見る。もちろん僕が干渉し得る問題ではないけど、いつも心の奥に沈みこんだ澱の存在を再確認する。きっと何も起こらないだろうけど。きっと。