天下の絶景

薩摩半島の先っぽに、番所鼻という小さな岬がある。日本地図を作成するために全国を測量していた伊能忠敬が「天下の絶景」と評したのがここだ。

開門岳は美しい。形の秀麗さで競えば、おそらく日本で五指に入ることは間違いないだろう。特に海に突き出た独立峰として、比肩する山はなかなか見当たらないと思う。

日本全国を回った伊能忠敬をして「天下の絶景」とまで言わしめた光景を、200年後に僕が眺めている。風が強い秋の午後、淡い蒼色の空に浮かぶ開門岳は、いつまでも気高くそびえていた。

僕は誰もいない公園で強い向かい風に目を細め、草の上に座ってしばし時間の流れを忘れた。