乙女峠の小さな教会
津和野に美しい名前の小さな教会がある。砂利の駐車場にイカくんを停め、静かな山道の階段を一歩一歩進んでいくと、小さな礼拝堂が姿を現した。広場の奥のテント下で聖書を朗読する人たちの声が、静寂の間をすり抜けるように聞こえてくる。

ここはキリシタン殉教の聖地であるらしい。小さな礼拝堂には、信仰を曲げることなく殉じたエピソードを伝えるステンドグラスが、5月の陽光に輝いている。

キリスト教を禁教とした明治政府によって長崎から連れてこられた信徒たちは改宗を迫られた。そのうち30数名がここで命と引き換えに信仰を守ったそうだ。キリシタン弾圧というと、天草四郎などが自然と思い出されるが、文明開化や急速な西欧化が進む明治政府になっても、そのような厳しい統制があったことはあまり知られていない。

そんな悲しい逸話が似合う風情である。押し付けではない静かな佇まいが、背筋を伸ばしたくなるような厳粛な空気を醸し出す。津和野の街中のカトリック教会も素朴でよかったけれど、僕はこちらの方が好きだ。昭和23年に建てられたこの礼拝堂は、建築物としての年数以上に雄弁に歴史を語っているようだった。

僕が訪れた翌日(5月3日)が期せずして「乙女峠祭り」が行われるそうで、その準備が粛々と進められていた。津和野の枕詞は「小京都」と相場は決まっているし、あえて否定する気もないけど、あまり観光客が多くないであろう礼拝堂に心が動かされた。

さて、殉教した彼らに神は何かを語りかけたのだろうか?僕はキリスト教ではないけれど、命を捧げた彼らには救いがあって欲しいなと素直に思った。

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