脱出!

2009年3月13日 日常
悪い予感はしていた。なにせ風と雨が荒れ狂う音で、その夜は何度も目を覚ましたくらいだったから。前日は青空が顔を見せ、愛子岳もきれいに見えた。その好天が嘘のように、夜半にはすっかり荒天の様相を呈してきた。

民宿を出る頃には、大粒の雨と強い風で傘が役に立たないくらいの状況。この天気じゃ飛行機が欠航するんじゃなかろうかと不安が募る。僕は第二便を予約していたが、ちょうど第一便が屋久島にやってくる時間だったので、飛行場に様子を見に行ってみた。

飛行機の姿は見えないが、雲の中からボンバルディアQ400のエンジン音が聞こえてくる。着陸のタイミングを計っているのかもしれない。駐車場に車を停め、雨に濡れながら空港のロビーに入ると、ちょうど滑走路に滑り込んだ機体が目に入った。余程のことがない限り、着陸できて離陸できないという事態はないらしい。すると、この便に乗れば確実に鹿児島に帰れるのだが・・・

まだ仕事が残っていた。その仕事を終わらせるためにわざわざ宿泊をしたのに、ここでキャンセルするのはなんとももったいない。しばらく逡巡したのち、予定通りに第二便で帰る選択をした。もちろん次の飛行機が降りられなければ、この選択は誤っていたことになる。

多少後ろ髪を引かれる思いを抱きながら、車を宮之浦方面に走らせる。切り替えて仕事しなきゃ。15分くらい走って宮之浦の町に入ると、なんと空港であれだけ降っていた雨が一滴も落ちていない。路面は濡れてすらいない。屋久島の気候は変わりやすいと聞かされていたが、まさかこれだけの距離(10kmくらい?)でここまで違うのかと正直驚いた。しかし、この天気を見て「帰れるかな?」と心配していた僕の心の天秤は、ぐぐっと楽観寄りに傾いた。

それを一気に悲観側に戻したのは、種子島に出張している同僚からのメールだった。
「海が荒れていて(鹿児島までの)高速船は本日全便欠航」
屋久島と種子島は隣接しているので、種子島の船が出ないとなると自動的に屋久島もアウト。
なに?するってぇと、もし飛行機が飛ばないと帰る手段がなくなるってことじゃねぇか。明日は重要な出張があって、しかも朝一番に東京に飛ばなければならないのに。この島に閉じ込められるかもしれないという恐怖がむくむくと湧き上がってきた。

出発予定時刻の30分前に空港に戻ると、宮之浦の穏やかさが嘘のように相変わらず雨風が吹き荒れている。心配そうな顔をした人たちで狭い空港ロビーは溢れていた。きっと僕も同じような表情をしていたことだろう。チェックインカウンターでは係りの人が「鹿児島空港を出発した飛行機が着陸できなければ欠航になります」とのセリフを繰り返している。まぁそれしか言いようがないのだろうけど、「飛びますよ」という言葉が聞けないのはなんとも心細い。

待つこと15分。ごった返して騒々しいロビーでも、はっきりとエンジン音が聞こえた。
来た!頼む、降りろ、降りてくれ。

気付くと双発の機体は駐機場にあって、周りを地上クルーが取り囲んでいた。あのエンジン音は着陸の際の音だったのかもしれない。僕は安堵の溜め息をついて、小さくガッツポーズをした。グッジョブ、パイロット!ネットで運行状況を確認していた同僚からは「おめでとう」メールが送られてきた。帰れるんだ、これで帰れるんだ。

飛行機に乗って窓の外を見ると、いまだ大きな雨粒と横殴りの風が機体と滑走路を叩いている様子がわかる。しばらくしてするすると飛び立った飛行機の中、僕はまるで孤島から脱出する映画の主人公のような気分で眼下の島を見下ろした。すぐに雲に入って見えなくなってしまったけれど、いつもの島を離れる時とは違う感慨を抱く。

ちなみにこの日、高速船は全便、飛行機は一便欠航した。かわいそうに同僚は翌日帰ってきた。「島に行くこと=帰れなくなる可能性」というリスクを考えさせられた出来事だった。

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